プロジェクト概要

芸術の社会的な役割に対する認識が高まる中、アーティストが自ら地域社会に入り、社会問題や地域の歴史文化、自然環境などを調査し、表現活動を行う、リサーチ・ベースの芸術実践(リサーチ型芸術実践)がアートの領域でひとつの潮流となっています。一方、文化人類学や社会学、歴史学、民俗学など、地域社会を研究対象とする人文学の領域でも、芸術実践との融合を志向する研究手法が注目を集めています。

これらは、リサーチという手法を通じて、表現者と地域に暮らす人々とが直接的な接点をもつことから生み出される実践であり、アートという手法を通じて、公的な記録からこぼれ落ちる小さな声と、その背後にある個々の文脈を浮かび上がらせ、社会に伝える方法論でもあります。と同時に、「知る」ことと「表現する」ことが、表象する側とされる側の非対称の関係の上に成り立つものであることも忘れてはなりません。その意味で、「地域と共にある」ことが重要であると、私たちは考えます。

このプロジェクトは、地域に根ざしながら、「表現」と「知」が重なりあって生み出される新たな領域へ挑戦する実践者が、分野や専門性、立場を超えて学び合う学際的なプラットフォームを形成することを目的に企画されたものです。レクチャーやゼミナールで、こうした実践のトップランナーとして活動するアーティストや研究者と対話すること。実践的なプロジェクトを通して、フィールドでのコーディネートやコミュニケーションのあり方を学ぶこと。様々な実践の可能性について思考/試行することを通して、「知る」ことと「表現する」ことの倫理的課題を踏まえながら、現実の社会的課題を人々に深く問いかける芸術実践の「場」を創造的に切り拓いていくことを目指します。

レクチャー & ゼミナール

表現と知が編み直される
地点を見る(→)

レクチャー&ゼミナールでは、学術研究や地域実践・芸術実践に携わる5名の専門家を招いて、地域におけるリサーチ型芸術実践の方法論と可能性について考えます。私たちはどのように人々や土地の声に耳を澄まし、それについて語ることができるのか。レクチャーでは、講師がそれぞれの探究の先に、どのような形で表現の可能性を見出していったのかを語り合います。また、レクチャーと合わせて行われるゼミナールでは、講師と対話形式でリサーチ型芸術実践の可能性について議論します。[全2回]

アーティスト・クロストーク

記憶を呼び戻すための旅(→)

アーティスト・クロストークでは、それぞれ在日コリアンのコミュニティと沖縄をベースに表現活動を行なっている2組のアーティストを迎えてお話を伺います。在日コリアンのコミュニティと沖縄は、ともに支配者による抑圧や排除の経験を伴う複雑な歴史的背景をもつ社会です。表現者であるアーティストや、それを受け取る私たちはその記憶の継承にどのように関わることができるのか。それぞれのアーティストたちによる表現活動の実践を交えながら、対談形式のトークセッションを通して考えます。

※ 12月に開催を予定していた岡本尚文写真展「まちを見るとき」は、諸般の事情により開催を中止することとなりました。

プロジェクト 1

message in a bottle
島の暮らし。島からの発信。(→)

地域におけるリサーチ型芸術実践(美術)のモデルケースとして、島/沖縄にクローズアップした多角的なリサーチ展示を制作するプログラムです。「島/暮らし」をテーマに、信仰・社会・歴史・交易・環境・移民(移住)・観光・労働などの切り口から、2名の講師とともに、フィールドワーク/インベスティゲーションを行います。このリサーチを通じて集めた資料や素材を「投壜通信」(message in a bottle)の形でまとめ、お互いのリサーチの成果についてディスカッションを行い、最終的にリサーチ展示へと結実させます。

プロジェクト 2

『複数形』のオキナワを聴く(→)

地域におけるリサーチ型芸術実践(音楽)のモデルケースとして、日本復帰50年を迎える沖縄の「音の個人史」に関するリサーチに基づくアーティスト・イン・レジデンス・プログラムを実施し、音楽・映像作品の創作を行います。公開ディスカッションをリサーチの終盤と作品完成後の2度のタイミングで実施し、アーティスト・イン・レジデンス・プログラムにおけるリサーチや作品制作のプロセスや課題を振り返り、地域でのリサーチ型芸術実践から得られた知見を共有します。

  • 文化庁
  • 大学から文化力
  • 公立大学法人沖縄県立芸術大学

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